prepare gentleman

NARUTO/鮫イタ

爪の手入れ×鮫イタ

「イタチさん、ごゆっくり」

水面を揺らして鬼鮫が浴槽から立ち上がると「あぁ」イタチは肩まで湯に沈む。
熱めに入れた筈の湯は時間のとうに温くなっており、のぼせる心配は無さそうだ。
ぼんやりとオレンジ色の電灯を見上げて10分、「上がるか」呟いてイタチも立ち上がる。チェーンの付いた古めかしい排水栓を引き抜くと溜まった湯が勢いよく吸い込まれて行った。
狭い脱衣所で身体を拭き、濡れた襟足の水分をごわついたタオルで吸い取る。
用意した下着を身に付け、簡素な浴衣に袖を通すと腹の前で帯を結んで風呂場を出た。

部屋では座椅子に座った鬼鮫が背中を丸めている。
ちゃぶ台に置かれたちり紙と爪切り、耳に届くさりさりとざらついた音は彼が爪を整えている証拠だ。

「…上がった」

ぼそりと呟いた言葉に「あら、イタチさん」鬼鮫は手を止めて振り向く。
彼は爪先に付いた粉を吐息で払うと「よく温まりましたか？」イタチの濡れた毛先を拭った。
こくんと頷いた彼に「お茶でも淹れますか？　あまり上等なものではありませんけど」鬼鮫は尋ねる。

「いや、いい…」

ゆっくりと顔を振ったイタチに

「…イタチさん？　熱でもあるんですか？」

ぐいと両頬を包み込んで顔を上向かせた鬼鮫に、イタチは視線を逸らせる。
色素の薄いイタチの紅潮した頬の色は湯上りの所為か熱が原因なのか、鬼鮫には分からない。

至近距離に迫った恋人の真剣な眼差しにポツリとイタチは返した。

「……その、これから…お前が俺を抱くのか、と思っ…て…」

――爪先の手入れは恋人を傷付けない為の最低限の礼儀。

勿論、“其れ”を目的にこの宿に入ったし、さっぱりと汗を流して行為に備えたのも事実。

だけど、けれども。

こうして恋人が自身を“抱く”準備を目の当たりにすると恥ずかしさを隠すことは出来なかった。

「…貴方って人は」

恋人の言葉に鬼鮫は返すと、そのままぎゅうと彼を抱きすくめる。

「…？　鬼鮫…？？　苦し……」

控えめにイタチは抗議するものの「すみません、少しだけこのままでいさせてください」鬼鮫は続けて、その長身の背中を丸める。
根負けしたイタチがゆっくりと背中を擦ると

「…貴方が愛おしくて仕方がないんですが」

鬼鮫が拘束を解き「俺もだ、鬼鮫」イタチも返してそっと口付けるのだった。

＊了＊