goodmorning gentleman

NARUTO/鮫イタ

腰が抜けてしまったイタチさんの話。

其れは、初めて二人が肌を重ねた朝のこと。

「…んぁ…」

寝返りを打ったイタチが壁にぶつかって眼を開けると、眼前に恋人の豊満な胸筋が目に映って思わず欠伸を呑み込む。視線を上げると「おはようございます、イタチさん」穏やかな恋人の微笑みに瞬時にイタチは状況を理解した。
脳裏を過ぎるのは昨晩のこと。

――抱かれたのだ、鬼鮫に。

唯の事実の復唱だったが、寝起きのイタチの精神を覚醒させるには十分な衝撃で

「おは、ぉはよぅ…」

思わず顔を覆って小さく呟いた。

眼前の恋人に重なるのは、昨晩の雄の姿。
戦闘中にも似た鋭い眼光に、隠さない欲の炎と懺悔を纏った悲痛な佇まいに思わず「大丈夫だ」嘘を重ねたのを思い出す。

「…あらあら」

急に顔を隠した恋人に鬼鮫は目を細めると

「さて、イタチさんも起きましたし……朝ご飯の支度をしましょうね。
　お腹、空いたでしょう？」

イタチの頭を動かさないようにゆっくりと腕を引き抜くと、身体を起こして肩を鳴らした。

「……腕、痺れ…」

細い指の隙間から心配そうに見上げたイタチに鬼鮫は首を振る。

「大丈夫ですよ」

――初めてではないですし。

重ねた年の違いからか、言葉を呑み込んだ恋人にイタチは気付かずに「そうか」頷くと

「オレも手伝う」

素直に言って起き上がった。
全身運動の所為か、妙な倦怠感はあるものの“不調”と言う程のものではない。疲労など兵糧丸で無理矢理抑え込んだ暗部時代があるのだ。この程度のことは気にする必要も無かった。

「いえ、いいんですよ。
　イタチさんは横になっててください」

随分とご無理をさせてしまいましたし。
今度は言葉を呑み込まず続けた鬼鮫は、ぽんとイタチの肩を叩く。けれど、イタチの負けず嫌いの性が顔を覗かせた。

「…いや、手つだ――」

そう勇んで立ち上がろうとするものの、そのまま膝から崩れ落ちる。

「！？
　イタチさん！？」

慌てて抱き上げた鬼鮫に、イタチは目を瞬かせた。

「……脚に、力が…入らな…」

“初めて”だからと丁重に扱ったつもりの鬼鮫だが、イタチには随分と“負担”だったらしい。経験、体格、体力――幾つもの要素があまりに違い過ぎだ。

――初めて、なのだ。仕方ない。

アカデミーでは成績優秀、暗部での経験もあるし決して体力不足ではない。

なのに。

大人びて見えていても、どんなに秀才だ、筋が良いと持て囃されても。
誰もが羨む写輪眼を持っていたとしても――まだまだ“人間”として知らないことが多かった。

「お体の具合は休めば回復しますから大丈夫です。
　……私も、気を付けますね」

幼子をあやすように頭を撫でて立ち上がった鬼鮫の背中が、昨日よりもずっとずっと大きく見える。
その背中に走る見慣れない蚯蚓腫れを見付け、思わず自分の指先を見遣る。――少しだけ伸びた爪に、顔が熱くなるのが分かる。

ばたりと上掛けを被って丸まったイタチに「？」鬼鮫は首を傾げるのだった。

＊おしまい＊