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Serena*Mのあたまのなかみ。
NARUTO/角飛

”そう”とは知らずに入ってしまった宿の話。
角都はガタイも良いのでご立派様だと思います。


――飛段は、その宿に入った時から妙な違和感を感じていた。

建物は古かったが掃除は行き届いて清潔であり、角都曰く「広い浴場がある」。
便所が共同なのは少し不便だと思ったが、悪くない宿だと思った。里抜けしたって、湯隠れの忍者なのだ。風呂に対する拘りは相方よりも高い。

「はァ~~~!? また戻るのかぁ!?」

手配した部屋で換金所から貰ったばかりの札束を数える角都に飛段は文句を言う。
先程、付き出した賞金首は手持ちのビンゴブックではあまり金額の高いものでは無かったが、新たに発行されたビンゴブックでは3割ほど多くの賞金が掛かっていたと言う。無駄だと言ってここ1年程ビンゴブックの更新をしなかった角都にも非はあるのだが、古い情報を幸いとばかりに安く叩いた換金所も一概に正しいとも言えなかった。

「不足した分を貰ってくる」

角都は頭巾を被り直し、外套を羽織る。

「もう俺、どっこも行きたくね~んだけど」

唇を尖らせた飛段に、角都は小さく舌打ちをして「待ってろ」そう部屋を後にした。

「大浴場にでも行って、ゆっくり風呂にでも入ってこい」

それが、角都の残した言葉だ。

「ゲハハ♪」

ツーマンセルが基本だと言われたって、四六時中一緒なのも時に飽きる。換金所は宿からも近いし、“別行動だ”と言われる範疇でもないだろう。

「~っしゃ、風呂ぉ」

保護者の消えた一室で、上機嫌に飛段は呟いたのだった。



大浴場で気持ち良く湯に浸かっていると、禿げ頭の老爺に「兄さん、良い身体してるねぇ…」肩を撫でられ、脱衣所では筋骨隆々の中年親父に「一人旅か?」なんて声を掛けられる。角都と2人、人からの視線を逸らされる事に慣れてはいたが、こうも安々と話し掛けられるのは慣れていない。人から逃げるように便所に行くと、其処でも先客が「…立派なものをお持ちで」(飛段だって角都に劣るものの立派なモノを持っている!)わざわざ覗き込んで引き戸を閉めて行ったから、とうとう飛段も「ひえ~~~~~~っ」早足で部屋への階段を上った。

――違和感の正体はコレだ。

敵意でも、嘲笑でもない、見定めるような視線。
ねっとりと纏わりつくような、熱視線とも違う重い情の篭った視線に飛段は震える。ほんの少し前、地下から汲みだしたと言う温泉を加温した湯で温まったと言うのに、見知らぬ恐怖に飛段は奥歯を鳴らした。と――

「兄さん、見た所独りのようだが」

廊下に出た所で、脱衣所で声を掛けた男が飛段を呼び止める。

「あ゙ぁ゙?」

人相も悪く答えた飛段だが、男も怯まなかった。

「酒は飲めるクチか? ちょっと付き合ってくれよ」

ずい、と一歩を踏み出されて思わず飛段は後退る。
恐怖なんて快感とばかりに生きて来た飛段なのに、この日は妙にこの感情が彼を襲った。

迫る男の視線から飛段は目を逸らす。黒瞳に瞳孔の大きさは分からなかったが、大きく開いているのは薄暗い館内だけが原因じゃないのは飛段も気付いていた。

「…兄チャン――」

男が肩を掴もうとした刹那、見知った声が頭上から注ぐ。

「悪いな。ソイツは俺のツレだ」

飛段が顔を上げると、相棒が彼の身体を引き寄せる。鍛えられた胸筋に背中が触れると、安堵するのが自分でも分かった。

「…んだよ、ツレが居たのかよ」

男は飛段を睨みつけて吐き捨てると、大きく舌打ちをして階段を下る。
彼の足音が耳に聞こえなくなると、飛段は抱かれたままの身を捻って角都の胸を叩いた。

「…おせぇ、し」
「……なんだ、困っているかと思って声を掛けたんだが。邪魔だったか」
「……ちげーし…」

俯いた飛段に、角都は目を細める。

「湯は良かったか。
 湯冷めしないようとっとと部屋に戻るぞ」

冷たくなった相方の頭を撫でると、

「…怖かったぁ゙…」

小さく飛段が零したので、角都は外套を濡らした事を咎めないでおこうと、飛段の素直さに頷くのだった。



「…ってぇと、ココは逢引宿っつーんだな?」

角都の買ってきた焼き鳥を突きながら飛段は眉を寄せる。
――実は角都も宿の実情はよく知らず、浴場が広いと聞いただけの話で、先の換金所と場所も近いし安かったから部屋を取ったのだと言った。

「さっきの輩もお前に一晩のぬくもりを求めたんだろう」

グラスに入った酒を傾けて角都は続ける。

「…でもよぉ、逢引宿つったらよぉ……フツー、男女だろぉ?」

食べ終えた串を咥えた相棒に「危ない」角都は其れを取り上げる。

「……お前、自分の事を棚に上げて“普通”と言うのか」

漬物を噛んだ角都は白々しい視線を寄越す。
己と相棒の関係に気付いた飛段は、わしわしと頭を掻いた。

「…でも、本当に怖かったんだぜぇ」

肩を竦めて飛段は説明する。
脱衣所で声を掛けられた事、便所で覗かれた事――

「それからさァ…」

また新しい焼き鳥を頬張りながら言って、はたと飛段の動きが止まった。

「…?  どうした」

グラスを煽って空にした角都に、飛段は悪巧みを顔を作って相棒に告げる。

「ってコトはよぉ…
 この宿に泊まるヤツの“夜”ってのは一緒かぁ…?」

耳を欹てれば聞こえる、階下からの甘い声。
隣の部屋は空のようだが、さっき便所に行った時に向かいの部屋に男が消えるのを飛段は見掛けていた。

「…だろうな。そのための情宿だ」

角都が答えると「我慢しねーで声出せるな」飛段は破顔する。
白い歯を見せたその顔に

「……阿呆が」

角都は悪態を吐いて、その晩は存分に相棒を抱いた。
翌朝――飛段も、思い切り啼いて掠れた声に「おもしれ~」ただ笑っていたから、2人の関係は悪くないようだった。

*おしまい*

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