ありのままを抱きしめて

NARUTO/カカイル

お御籤がテーマの短篇です。
カカシ先生は忍として優秀だし、本の虫なので知識が宝庫だけど、
素直にイルカ先生の言うこと（民間伝承とかも）を信じる純真さが良いな～って思います（強めの幻覚）。

飯盒遠足の下見を兼ねて遠出した帰り道（イルカ先生は休みの日だって“先生”なのだ）、賑わう神社を見つけて「寄ってこーよ」カカシはイルカの袖を引く。

「あぁ、有名な縁結び神社ですよね」

イルカは頷くと寄りましょう、恋人に笑顔を向ける。
本坪鈴を鳴らして手を合わせ、そのまま御籤の並ぶ境内に出ると神社に誘った時と同じようにカカシはイルカの袖を引っ張った。

「ね、引いてみましょ」

小振りな財布から小銭を出したカカシに、断る道理はイルカはない。
2回分の代金を料金箱に入れると、置かれた御籤をカカシは引いた。
深呼吸をしながら糊付けされた其れを開封すると、『大吉』書かれた文字にカカシの心が跳ねる。

「ねぇねぇセンセ、どうだった…？」

隣で同じように御籤を開く恋人を覗き込むと、其処には固まったままのイルカと目に飛び込むのは『小吉』の文字。

――オレの幸せは貴方と共に在るんだから、この大吉の効力だって……

そんな甘い台詞を吐こうとしたカカシだったが、

「もう1回！」

小銭入れを取り出したイルカが駆け出して、カカシの手のひらは寂しく虚空を切る。

1人残されたカカシは、大吉の御籤に書かれた恋愛の項“良縁。途切ることなく続く”その言葉に「ほんとぉ？」口布の中で唇を尖らせるのだった。

＊

結局、5回ほど御籤を引いたイルカがやっと大吉を出して2人は境内の階段を下る。

「御神籤って運試しみたいに1回引くんじゃないの？」

『大吉の御籤はそのまま持ってて良い』イルカに教えられたカカシは、小さく折り畳んだ其れを財布に仕舞いながら恋人に尋ねる。

「…まぁ、そうして引いても良いんですけど…
　御神籤は何回引いても良い、とも言われてますからね」
「そうなの？」

カカシと同じように、大吉の御籤を仕舞ったイルカは頭を掻く。
アカデミーの子供たちを相手にする教師はいつだってまっすぐで純情で、その存在自体がカカシには眩しかった。

「良いことも悪いことも、結局は“己の身を顧みよ”ってアドバイスなんです。
　だから悪い結果だとしても、“今度の任務では気を付けよう”とか“あの事は謝りに行こう”とか、少し注意が向くでしょう？　良ければ“驕り高ぶらず、素直な心を持とう”とか…」
「…でも、イルカ先生、何回もやり直してたじゃない。
　欲しい結果じゃなかったの？」

『もう1回』『あと1回』

そう何度も御籤を引いたイルカにカカシは尋ねる。痛い所を突かれたイルカは「う～…」俯いて唸ると、小声で続けた。

「――が、良かったんです」
「？　なぁに、センセ」

首を傾げたカカシに、顔を赤くしたイルカが繰り返す。

「い、一緒が良かったんです！！」

恋人の返答にカカシは目を瞬かせると「うわぁ…！」人目も憚らずに思わずイルカを抱きしめた。

「ちょ、ちょっとカカシさん！　人！　ここは外です！！」

まぁ♡、良いことあったのかしら、優しく投げかけられる往来の視線にイルカが身を捩るが、其処は上忍。少し身体を動かしたくらいではぴくりとも動かない。

「……嬉しい。先生、オレと一緒が良かったんだ？」

大吉なんて出しちゃって、ごめーんね。
耳元で囁くと、そのまま嬉しくなって手を握る。

「わ、ま、待って早い早い早い！」

足取りも軽やかに階段を下るカカシに、半ば転がるようにイルカも階段を駆け下りる。

「帰りに一楽の全部乗せラーメン食べまショ！　今日はね、大吉だから健康運花丸なの」

顔が隠れて見えないものの、目尻の下がったカカシの顔はきっと満面の笑みを作っているのだろう。
あまり表情が見えないと愚痴っていた桃色の髪の卒業生を思い出してイルカも表情を緩める。

「あっイルカさんも笑った！　やっぱり大吉効果かな」

上機嫌な恋人に「そうですね」イルカも肯定すると「じゃぁ早く帰りましょう」カカシはイルカの手を引っ張った。
その動作がまるで幼い子供のようで、仕方ないなぁ、イルカも掴んだ手のひらをぎゅっと握り込む。

「ほら、はぐれないようにちゃんと手は繋がないと」

驚いた顔をして振り向いたカカシにイルカは微笑むと、

「ほんと、センセってば先生～！」
「どーゆー意味ですかぁ？」

2人並んで仲良く里に戻るのだった。

＊おしまい＊