Serena*Mのあたまのなかみ。
メダリスト/夜鷹×司
金銭面の問題から始まったのだが、気が付いた時には司は自分で髪を切るのが当たり前になっていた。
最初はゴミ袋をくり抜いた簡易なポンチョに事務用品のハサミだったのが、いつの間にか専用のハサミを買い揃え、散髪用ポンチョも別に用意するようになる。
少し伸びたな、気になった時に気軽に手入れ出来るのに慣れてしまったし、折角揃えた用具を手放すのは勿体ない。髪型についても後ろ指をさされるような失敗はしなかったから、そのまま止め時が分からないままセルフカットを続けていた。
「髪、伸びて来たなぁ」濡れた襟足を拭きながら司が呟いたのを夜鷹が拾う。
「…何処かお店に通っているの?」
広いソファに座る夜鷹に、司は首を振る。
「いえ、自分で切ってます。適当に」
「…適当?」
夜鷹は司を手招きすると、まだ濡れた髪に触れる。いつも短くさっぱりと仕上げられた司の髪は、定期的にお店に通って維持しているものだと思っていた。指先についた水滴をタオルで拭うと、彼は提案する。
「ねぇ、僕の髪も切ってよ」
「…はい!?」
夜鷹の言葉に司が目を丸くする。
司の驚きぶりに夜鷹は面食らったが、もう一度同じ言葉を続けた。
「僕の髪も切ってよ」
切れるんでしょう?
夜鷹は尋ねる。
「いやいやいやいや。無理ですって」
司はもう一度襟足の水分を拭うと、夜鷹の向かいのソファに腰を下ろした。
「お金? それなら払う」
首を傾げた夜鷹に司は首を振る。
「…いや、その……そうじゃなくて…」
声のトーンを下げた司を、夜鷹はじっと見つめた。
「ハサミって…刃物…、ですよ。
刃物を持って後ろに立つんです」
「…? なんで?? 髪を切るのにハサミは必要だろう」
「いやだから刃物をですね…」
司は男兄弟で育った。バトル物、戦闘狂のマンガなら沢山触れて来たのだ。
背後から切りつけられる、寝首をかかれる。
刃物を持った男が恐ろしいことは――例え話が二次元だとしても――理解して欲しい。
断り続ける司に、夜鷹の眼光も鋭くなる。
「君に切って欲しいって頼んでるのは僕なんだからさ、つべこべ言わないで切ってよ。
もう前髪が長くなって邪魔だし。短くして」
――だったら、通っている美容室に行けば良いだろ!
突っ込みたいのを抑え、根負けした司は「…はい」頷く。
きっと余りに忙しくてお店に出掛ける暇もないんだ。
自分が整えたらそのあとお店に行くだろう――
司はそう自分を納得させる。けれど、
「知らない人(美容師)に髪の毛触られるのって嫌なんだよね」
言い放った夜鷹に「どうして!? 俺はいいの!?」思わず司が叫んだのは言うまでもない。
*
――週末。
光の指導に現れた夜鷹の髪の毛は妙に小奇麗だった。サイドの髪の毛は少し長く残されているものの、前髪は目線が見えるくらいまでに切り揃えられ、襟足は真っ白な首筋が覗くくらいには短い。“夜鷹純”らしい雰囲気は纏いながらも、さっぱりとした髪型に誰もが驚いたが、夜鷹本人は満足げな表情を浮かべるのだった。
*おしまい*
最初はゴミ袋をくり抜いた簡易なポンチョに事務用品のハサミだったのが、いつの間にか専用のハサミを買い揃え、散髪用ポンチョも別に用意するようになる。
少し伸びたな、気になった時に気軽に手入れ出来るのに慣れてしまったし、折角揃えた用具を手放すのは勿体ない。髪型についても後ろ指をさされるような失敗はしなかったから、そのまま止め時が分からないままセルフカットを続けていた。
「髪、伸びて来たなぁ」濡れた襟足を拭きながら司が呟いたのを夜鷹が拾う。
「…何処かお店に通っているの?」
広いソファに座る夜鷹に、司は首を振る。
「いえ、自分で切ってます。適当に」
「…適当?」
夜鷹は司を手招きすると、まだ濡れた髪に触れる。いつも短くさっぱりと仕上げられた司の髪は、定期的にお店に通って維持しているものだと思っていた。指先についた水滴をタオルで拭うと、彼は提案する。
「ねぇ、僕の髪も切ってよ」
「…はい!?」
夜鷹の言葉に司が目を丸くする。
司の驚きぶりに夜鷹は面食らったが、もう一度同じ言葉を続けた。
「僕の髪も切ってよ」
切れるんでしょう?
夜鷹は尋ねる。
「いやいやいやいや。無理ですって」
司はもう一度襟足の水分を拭うと、夜鷹の向かいのソファに腰を下ろした。
「お金? それなら払う」
首を傾げた夜鷹に司は首を振る。
「…いや、その……そうじゃなくて…」
声のトーンを下げた司を、夜鷹はじっと見つめた。
「ハサミって…刃物…、ですよ。
刃物を持って後ろに立つんです」
「…? なんで?? 髪を切るのにハサミは必要だろう」
「いやだから刃物をですね…」
司は男兄弟で育った。バトル物、戦闘狂のマンガなら沢山触れて来たのだ。
背後から切りつけられる、寝首をかかれる。
刃物を持った男が恐ろしいことは――例え話が二次元だとしても――理解して欲しい。
断り続ける司に、夜鷹の眼光も鋭くなる。
「君に切って欲しいって頼んでるのは僕なんだからさ、つべこべ言わないで切ってよ。
もう前髪が長くなって邪魔だし。短くして」
――だったら、通っている美容室に行けば良いだろ!
突っ込みたいのを抑え、根負けした司は「…はい」頷く。
きっと余りに忙しくてお店に出掛ける暇もないんだ。
自分が整えたらそのあとお店に行くだろう――
司はそう自分を納得させる。けれど、
「知らない人(美容師)に髪の毛触られるのって嫌なんだよね」
言い放った夜鷹に「どうして!? 俺はいいの!?」思わず司が叫んだのは言うまでもない。
*
――週末。
光の指導に現れた夜鷹の髪の毛は妙に小奇麗だった。サイドの髪の毛は少し長く残されているものの、前髪は目線が見えるくらいまでに切り揃えられ、襟足は真っ白な首筋が覗くくらいには短い。“夜鷹純”らしい雰囲気は纏いながらも、さっぱりとした髪型に誰もが驚いたが、夜鷹本人は満足げな表情を浮かべるのだった。
*おしまい*
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