花束を君に

【鋼の錬金術師】より、ロイハボ。

相変わらずの言葉の羅列なので深い意味のある内容ではありません。

「お兄さん、可愛い彼女にプレゼントはいかが？」

珍しく軍会議が早く終わった月夜の晩、まだ人通りのあるセントラルの歓楽街を歩いていたロイ・マスタングはそんな軽やかな花屋の店員の声に呼び止められた。

ガス灯の真下のそのワゴンは知らない屋号で、見た事のない女性の店員に女誑しである彼は勝負服にも見える軍服に似合う凛とした微笑みを浮かべる。

――あぁ、まだ早い時間だから家には帰らずに恋人の家に寄ろうか。

素早く彼は脳裏で計算する。
地位は自分より下だったから、もうとっくに家に戻っているであろう、金髪のその人を思い浮かべて。

「そうだな、1輪貰おうか」

ロイはその誘いに乗る。

「1輪？
　花束ではなくて？」

柔らかいオレンジの光に栗色の巻き毛を揺らした店員に、彼はまた少し笑った。

「あぁ、恋人の家は殺風景でね。
　きっと花瓶も無いんじゃないかな…」

調理器具だって必要最低限なあの家に、娯楽品のような花瓶があるワケもない。
あるのはきっとペアのシャンパングラスとか…きっと、ロイが以前買い与えた物だけだろう。

「まぁ、意外。
　…なら、今度はお兄さんが花瓶をプレゼントして、大きな花束を買いに来てね」

商売上手な彼女はウインクする。

「どの花が良いかしら？」

尋ねられたのでロイは店員の後ろの百合にも似た白い花を指さした。
1輪でも立派に見える花だから、今夜渡すのには最適なものだろう。

「…アングレカム、か。お目が高いわね、お兄さん」

店員は素早く古紙でその花を包み、赤いリボンを結ぶ。
銀貨を渡したロイに、彼女はそっと耳打ちした。

「この花の花言葉はね、“いつまでも貴方と一緒”よ。
　今度は彼女と買いに来てね」

ありがとう、そう告げてロイは花屋のワゴンを後にする。
つい先週あたりからぐっ冷え込んだ街に軍服の襟を立てる。

――こうも寒いと、温かい物も欲しくなるな。

恋人の家の通り沿いに良い酒屋があったのを思い出して、それを手土産にしようと彼は歩きだした。



＊


突然の恋人の訪問に、ロイの恋人であるジャン・ハボックは大いに驚き、そして彼が一輪の花を手土産に持ってきたから余計に何事かと目を丸くさせた。

「帰りに道に見つけたから、君に会いたくなってね」

持ってきたワインをグラスに手酌しながらロイは言う。
既に恋人は夕食を済ませてしまっていたけれど、それでもロイの為に簡単にな夕食を並べてくれた。

「…それだってきっと、口実なんでしょう？」

ジャンが困ったように笑う。

「いいや、違うさ」

ロイは立ち上がってジャンの前に跪く。

「…？」

テーブルに置きっぱなしの花をそっと掴んで差し出す。

「この花の花言葉は“いつまでも貴方と一緒”だそうだ。
　…今度、花瓶を買いに行こう」

そう言って掌に口付ける。

「…！？
　それって…？」

突然の恋人の行動にジャンが目を白黒させる。

「…ずっと、愛しているよ…」

ロイは囁いて、今度は唇に愛を紡いだ――


＊FIN＊

穏やかだなオイ…（だって前に書いてたので10年以上前だもんねッ★）