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Serena*Mのあたまのなかみ。
サムライチャンプルー/ムゲン×ジン

Beyond dreams and desires】の続きのような違うような。
スマホの話②

※加筆修正その②






『な、連絡先だけ教えてくれよ。これ、オレんだから!』

今日も宿場町に繋がる街道で、ムゲンはすれ違う美女に声を掛ける。

それは見慣れた光景ではあったが、同性であるフウはあまり良い顔をせず、いつも視界に入った甘味処へと駆けて行くのだった。
彼女が行ってしまえば、此処は男所帯になる。
これ幸いにとばかりに、彼は手当たり次第に女たちに声を掛けるのだった。



「兄さん、旅の人でしょ?連絡したって会えないじゃん~」

ある女はその豊かな胸を寄せて、笑う。
オレンジのグロスが健康的に見えたが、うなじの後れ毛が色っぽかった。

「あら、男所帯の干物旅?」

別の女はそう言って口の端を妖艶に上げる。
目元の泣き黒子が一層その妖艶さを引き立てた。

どんな言葉を吐かれたって、返すムゲンの言葉は同じ。

「だからさ、お前ンとこに帰ってくるのよ」

後ろで見ているジンはいつでも冷静に彼を観察しているから、

――そんなセリフ、よくもまぁ、言えるもんだ。

そう、尊敬にも似た感情で思い切り侮蔑してやった。



***



「オレにはお前しかいねぇよ」

ムゲンは言って、ジンの胸元に口付けた。
何時もより強く吸い付いてやると、其処には真っ赤な薔薇が咲く。

――誘惑する胸も無ければ、色気も無い。
口を吐くのは辛辣なセリフばかり。
そんな男の何処に欲情するのだろう。

指先に愛撫する恋人を見遣って、ジンはいつも思う。

彼の視線に気付いたのか、ムゲンがそっと視線を上げた。
鋭いその瞳に、強い意志が垣間見える。

「帰るのはお前だけだ――」

――真昼にも聞いた言葉。

「色々な女の元に帰るのだろう、結局は」

――唯、自分は一緒に居るだけの都合の良い存在。
きっと此処に居たから、選ばれただけ。

だって現に、連絡先さえ知らない。
行きずりの彼女たちは、彼との繋がりを持っているというのに。

短く吐いた言葉に、ムゲンは何を思ったのか。
無言のまま、またその赤い舌を白い指先に這わせ始めた。



***



時刻は夜明け前。
群青色が少しずつ薄まった空に、冷たい風が吹き込む。
自身の身震いで目覚めたジンは、そっと窓を閉めるとムゲンの枕元でチカチカと光る緑のランプに気が付いた。

布団を蹴っ飛ばして腹を掻く恋人はその光には気付いていない。

――いけない。
頭では理解しているのに、自然と手が伸びてしまう。

番号だけの、見知らぬ電話。
暫く、それはチカチカと着信を告げていたが暫くするとそっとこと切れた。

『着信あり   25件』

直後に表示される、機械からのメッセージ。

何処の女なのだろう。
何時の女なのだろう。
行く先々で口説いた女たち。

一体どれだけの数が登録されているのか。
ダメだと思いつつも、一度手に取ってしまえばその先を見ることはとても簡単なことで
すっと指先を滑らすと彼の交友関係が全て明るみに出る…はずだった。

「…?」

連絡先の項を開いても、表示されるのは『登録 0件』の文字。

「…盗み見るなんて、お前らしくねぇなぁ」

「?!」

驚いて振り向くと、そこには欠伸を噛み殺したムゲンが胡坐をかいて座っていた。

「…登録、しないのか」

膨大な着信履歴。
言っている傍から、また画面が白く光って着信を告げていた。

「俺が登録してぇのは、お前だけ」

ムゲンはスマホをジンから取り上げる。
抱きつかれてそのまま深く口付けられた。

――いつから、頬を舐められても払わなくなったのだろう。
袷から、胸を探る骨ばった掌も。

唇を離すと、ぽつりとジンが呟く。

「…お前と連絡する必要なんて、無い」

「良いじゃねぇか」

鼻で笑ったムゲンに、ジンとしては珍しく、彼からぎゅっとしがみ付いた。

「…現実のお前が此処に居るからな…」

その一言に、ムゲンの動きが止まる。

「…いつの間に、そんなおねだりが上手になったんだ?」

含み笑いをしながら尋ねると、いつか口説いた女よりももっと妖艶な唇からジンは薄いピンクの舌を覗かせた。

「お前だろう、仕込んだのは…」

まるでそれが始まりの合図だったかのように、ムゲンがジンを組み敷く。

刹那、枕元のスマホがまた光った。

「現実のお前が居るのに、こんなの、必要ねぇよな…?」

ムゲンがチカチカと点滅するスマホの電源ボタンを長く押す。ほんの2,3秒押し込んだだけで、ぺかぺかとしていたその画面は真っ暗闇に変わった。

「…もうすぐ、朝になるぞ」

群青に少しだけオレンジが混ざり始め、うっすらと明るくなった天井を見てジンが呟く。

「お前が居る限り、何処だって夜になるさ」

低く答えた恋人の言葉に、ジンはそっと瞳を閉じて夜を受け入れた。


――スマートフォンは、もう、鳴らない――



*FIN*

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