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Serena*Mのあたまのなかみ。
NARUTO/角飛

いつもの闇鍋まとめ。
※現パロ、女体化、ワードパレット
2024.01~03分


1.ナイトキャップ
「注いで」「甘さ」「とろりと」

珍しく夕食のあと、「ねみぃ」と自室で転がってそのまま寝こけてしまった飛段が目を覚ましたのは夜中の3時。普段は2時近くまで起きていることが多かったから就寝する時間に起きてしまったことになる。取りあえず、目が覚めてしまった原因の尿意に対処してもう一寝するか、欠伸を噛み殺して目を瞑ったものの、睡魔が擦り寄る気配も無い。
あっちに寝返り、こっちに足を投げ、良い枕の位置を探してゴロゴロと時間を潰すものの、その全てが無駄なようだった。

睡眠時間だけで言えば6時間は寝ている。眠れないのは仕方のない話だ。
任務中に居眠りしたところで、角都に首を飛ばされるくらいだろう。畳に置いた時計を見ながら飛段は思う。

眠るのを諦めてアジトの食堂を覗くと、まだ4時前だと言うのに其処は薄く明かりが灯っていて、「鬼鮫ぇ…?」飛段は目を擦った。

長身の影は飛段に答える。

「……俺だ」

聞き慣れた相棒の声に「角都ぅ」飛段の頬が緩む。

「なんだ、起きたのか」

火にかけたヤカンに向き合っている角都は、視線だけを動かして飛段を確認したようだった。

「眠れなくってよぅ…」
「…珍しいな、お前が」

角都は答えると湯気の吹き出した其れを急須に注いで茶を煎れる。

「二度寝はせんのか」

いつも勝手に布団に入り、くっついて眠る飛段に角都は尋ねる。

「角都がいねーから眠れないのかも?」

げははは、笑った相棒に角都は溜息を吐くと「牛乳でも温めてやろう」背後の冷蔵庫を開けた。

「え、作ってくれんの? 角都が??」

珍しい相棒の優しさに目を丸くした飛段へ、角都は睨みを利かせる。

「今日の任務でヘマをして欲しくないからだ。ちゃんと寝ろ」

その首飛ばすぞ。
考えた幻覚と同じような相棒の対応に、自身の明確過ぎる妄想に飛段は笑いを噛み殺した。

手早く角都は小さな鍋で牛乳を温めると、棚から蜂蜜の瓶を引き寄せてとろりと蜜を滴らせる。牛乳が沸き立つ前にカップに其れを注いで、「ほら」寝起きの相棒に差し出した。

「……ありがと」

慣れた相棒の手さばきに見とれていた飛段は頷くと、湯気の立つホットミルクに口付ける。ほんのりとした甘さに「美味ぇ」呟くと、満足そうに角都も茶を啜った。

「飲んだら寝ろ。任務の時間に起こす」

テーブルの定位置で新聞を広げた角都に飛段は頷いて、乳白色のホットミルクを見つめながら「あ~昨日から鬼鮫は任務で留守だったなぁ」そんな事を思い出す。

眩しい朝焼けと其れに動じない相棒を見ながら、やっぱ角都はジ~さんだな、朝が早ェ。まだ温かい其れを飲みながら飛段は思って、そして2度寝は相棒の布団にしようと計画するのだった。

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1.ナイトキャップ ②
(想像力の試される文章)

大きく息を吐いた角都は汗ばんだ飛段の額を撫でる。猫のように頬を寄せた相棒に角都は目を細めると、そっと身体を動かした。
注いだ命の脈がとろりと滴って彼は生唾を呑み込む。微塵の甘さも無い其れに欲情するとは酔狂な、自分で自分を嘲笑った。

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9.キスオブファイア
「歌」「青と赤」「しっとり」

長風呂をしてる飛段は上機嫌だ。
初めは鼻歌、それから流行の曲(ナンバー)、最後には演歌をなんかをしっとりと歌い上げる。

「あな~~~たのォーーー地獄までぇ~~~~」

思いきりこぶしを付けて歌う其れは角都が若い頃に流行った歌謡曲で、妙に飛段が気に入って歌う曲だった。

「いい加減上がれ、のぼせるぞ」

洗い場でカランを回した角都が顔を向けると「へいへーい」飛段は言い、壁に埋め込まれたリモコンを操作する。
ペカペカと湯の色が青と赤に変わるのにゲラゲラと笑っているのを見ると、まだ彼は上がる気は無いようだ。

――ったく。

角都は小さく溜め息を吐くと、ざぶんと色を変える湯面を波立たせる。

最近はイマイチ成果の上げられない任務ばかりで、賞金首の金額も乏しくて。
けれどこうして人里に来たのなら温かい宿を求めたい。なるたけ安価に――と、角都の条件に一致したのが色街の宿だった。
金さえ積めば男2人だろうと部屋は案内される。下手な旅館より詮索されない分、居心地が良いと思うのは相棒には秘密だ。

「…さっさと上がらんと、ここで抱くぞ」

睨んだ恋人に

「ちぇ、つまんねぇの」

唇を尖らせて飛段は答えるのだった。

――その頬が紅潮しているのは、のぼせたのか今宵への羞恥か。

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2.ピコンアンドグレナデン
「甘いだけじゃ」「奪い去って」「ほろ苦い」

初めて覚えた“好き”の感情は敬愛するジャシン様への敬いの心で、其れは見返りを求めない愛だった。
次に見つけた“好き”は食べるもの――こんがりと焼かれた肉(スペアリブ)で、此れも見返りがない無機物だった。
その後に見つけた“好き”は相棒でもある角都で、聞いた彼の生い立ちに飛段の心は奪い去られたのだ。なのに、感情(好意)を告げた彼から返って来るのは辛辣な言葉ばかりで、いつも飛段は相棒に雷を落とされる。

「莫迦が、そんな事も知らないのか」
「煩い、飛段」
「その首へし折るぞ」

――事実、足を引っ張っているのは飛段の方だ。
けれど賞金首の得意忍術を告げないまま戦闘を始め、作戦を突然に変更した角都に非はある気がする。なのに、強く言い返せないのは経験の差か、惚れた弱みか。

そんな相棒なのに、時折優しく接してくれるから飛段も心の底からは嫌いにはなれなかった。愛は甘いだけじゃないのだ。
今だって「疲れた、足が痛い!!」騒いだ飛段に根負けして、街道沿いの茶屋に入ったのだ。
勝手に頼まれた抹茶はほろ苦い風味で飛段の好みでは無かったが、一緒に運ばれたくるみ餅は悪くなかった。

「美味ぇ~」

破顔した飛段に「そうか」角都は言うと眉を顰める。
「?」首を傾げた飛段に「落とすな」告げて胸元に垂れたくるみ餡を掬う。そのまま口布を下げてペロリと指を舐めた舌は艶やかで、覗く顔立ちに思わず飛段は息を呑んだ。

「…食ったら行くぞ」

低く言って立ち上がった角都の後ろ姿に「ぉ、おう」飛段も続くのだった。

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8.ブランデーブレイザー
「そのままの」「燃える」「香り」

細い小枝を炎に投げ入れると、パチパチと爆ぜながら枝が燃える。広がる青い香りに「あ~~~ぁ」飛段は四肢を放って転がった。

「腹減ったなーーーァ!?」

任務だと早朝から連れられ、待機だと山間の洞窟に身を潜めて3日。任務は直ぐに終わる筈だと、あの用意周到な角都が珍しく何も用意しないで出掛けたら珍しく相手は潜伏の達人で煙に巻かれてても足も出ないまま無為に時間が過ぎていた。非常用にと持った兵糧丸は底を尽き、居場所がバレると満足に食料採取にも出かけられない。今だって焚火が御法度の筈だが、じたばたと煩い相棒に根負けして火を灯したのだ。相手もプロならばもうこの辺りには居ないだろう。――実際、角都ならそうする。
任務の失敗は不本意だったが、急に頼まれた役目なのだ、多少の情報は仕入れたし手ぶらではないのが救いか。

「帰ったらたらふく食わせてやる」

標的を逃したのは飛段の動きが悪いのもあって小言を並べたが、其れで良くなる飛段ではない。互いに機嫌が悪くだけだと2日目になるまえにその話題に触れる事は無くなって3日目(今)に至る。

「約束だかんな~~!?」

身を起こした飛段が角都に顔を向けると、角都は視線だけで肯定する。
相棒の返答に満足した飛段はまたばたりと倒れ込むと「ジャシンさま~~腹が減りましたァ」胸元のペンダントを引き寄せて口付ける。そのまま放っておくと寝息が聞こえて

「阿呆が」

角都の溜め息が焚火に溶けた。

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力強い朝
(隠喩)

飛段は人間の身体について詳しいことは分からない。
分かるのは何処を突けば死ぬのか、とか血が出るか、とか関節が外しやすいか、なんて戦闘のことばかりだ。

そんな彼でも唯一生体として理解していることがある。

朝になると身体の中心、男としての象徴の部分が痛いのだ。

深い理由はよく分からない。
けれど「大人への一歩だ」教団の人間は飛段に伝え、その対処法を教えられた。

「ふぅん」

それは飛段にとって良いことでも悪いことでもなく、ただ“勃ってるなぁ”思うだけの仕様だった。

――年長者である角都と組んで日が浅い頃の話。

珍しく隣の角都より早くに目が覚めた飛段は、隣で目を閉じて眠る相棒にむくむくと悪戯心が沸き上がる。
自分と角都は七十近く年の離れた人間だ。ジィさんじゃん。飛段は思っていたから、彼の雄がどうなっているのか少し気になったのだ。

「お邪魔しまぁす」

寝入って微動だにしない角都にこっそりと飛段は近付くと、そっと布団を捲る。

「…元気ですかァ!?」

揶揄って小声で呟いた其処は、力強く下衣を三角に押し上げていて「ひん」思わず飛段は後退る。
確かに浴室で見る角都の其れは大きい。身長も飛段より高いし、筋肉質な肉体なのだ、体躯に見合ったモノが“そう”なるのは当たり前の話だ。

「……」

生唾を呑み込んだ飛段だったが、興味が勝ってそのまま相棒の服も緩める。
眼前に聳え立った其れに「かっけ…」同じ男としての羨望の眼差しを向けた直後、角都の目が開き、じろりと飛段を睨みつけた。

「!!!!」

反応するより早く、角都は相棒に強烈な肘鉄を喰らわす。

「~ってぇ!」

地怨具を伸ばして涙目の相棒の首を思いきり締め上げた角都だったが、

“格好良い”

漏れ出た少年の言葉に、強く気道を塞げないでいるのだった。

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ジョガーパンツ
※現パロ

角都の服装はいつもきっちりしていた。
仕事はスーツが基本だし、休みの日でもスラックスにジャケットを羽織ることが多い。

『考えるのが面倒なだけだ』

角都はそう言うけれど、マフラーやベルトの小物なんかは結構流行りを意識していて毎年買い替えているし、靴だって綺麗に磨いて並んでいるのだ。

そんな角都だけど、“家の中”になると驚くほどラフな格好だった。
数年前に流行ったブランドのTシャツに毛玉のついたカシミヤのカーディガン。最近のお気に入りはジョガーパンツで、その前はサルエルをよく履いていた。

「なァ、お前きっちりした格好好きじゃん」

コンビニでビールの缶を取り出しながら飛段は後ろの角都に呟く。
今日の2人はジョガーパンツを履いていて、飛段が若者向けの価格帯の安いアパレルブランドのものに対して角都のは海外のスポーツブランドの高級品だった。
――飛段の衣服を見た角都が「いいな」買ったものだ。

大人しくカゴの中に渡された缶ビールを置きながら角都は口角を上げる。

「そりゃぁ…デカいからな」

下劣な言葉を吐いた恋人に、誰よりもその大きさを知っている飛段だったから「最悪」顔を顰めるのだった。

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巻物を食べる

2月3日――節分。
季節の行事に興味なんて無さそうな秘密組織(暁)であるが、妙にリーダーはそういった行事を大切にする人で、今日も夕食の前に豆を撒き(トビが楽しそうに撒いた。鬼はサソリが傀儡を弄ったなかなか本格的なもの)、アジトに残るメンバーには“恵方巻”と呼ばれる縁起物の巻物が振舞われた。

「え~…と、今年の方角は東北東…?」

購入した恵方巻に封入されたチラシを読んだデイダラに

「なら、こっちね」

小南が向きを変える。

「食べ始めたら話したらダメだぞ」

毎年のことなのに説明したリーダーへ「おぅ」飛段が頷くと「いただきまぁ~す」いの一番に巻物に齧り付いた。
其れに続くように、残ったメンバーも無言で恵方巻を食べ始める。

「~~…ッ!」

食べ始めて早々に反対側からボロボロと具材を落とすデイダラ、小南は上品に齧り付くものの、太巻きを一口で頬張るのは難しそうで苦戦している。
角都は早々に「年寄りが喉を詰まらせたらシャレにならんからな」そう言って海苔巻きを置き、最後まで綺麗に食べたのは飛段ただ1人だった。

「上手ッスねぇ!」

そんな彼にトビが手を叩く。

「んぉ?
 あ~あの大きさだと角都のと――」

言いかけた飛段の口元を角都が塞ぎ、「?」首を傾げたゼツをよそにそのまま羽交い絞めに締め上げる。

「ギブ!ギブギブ!!」

じたばたと騒ぐ飛段は己の失言に気付いてはいないらしい。

――素直なのは彼の良いところだ。
ただ、時と場所を弁えろ、という話なのだが。

そんなコントのような不死コンビを見ながら、サソリが「聞きたくもねぇ事情聞いちまった」顰め面を作るのだった。

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be quiet(お静かに)

はっきり言って、飛段はうるさい。

地声も大きい事ながら、脳が無いのか?と思うくらいに目から入った情報を口にする。

「お食事処・いろは」
「忍具 砥ぎます」
「岩隠れ総合治療院」

大きな里の大通り、角都と並びながらぶつぶつと読み上げる飛段に「少しは黙ってられんのか」角都は苛々と舌打ちする。

「ん~…じゃぁ角都と話す」

白い歯を見せた相棒に「断る」にべもなく角都は返すと歩調を早めた。

待てよぉ!追いかける飛段に、

「明日の朝までに山を越えなければならん。急ぐぞ」

短く角都は言うのだった。



「ん~…
 ジャシン…さまぁ……」

口元を緩めながら呟く飛段の言葉は寝言で、

「寝てもうるさいか」

爆ぜる火を見つめながら角都は悪態をつく。
そう、いつだって飛段は五月蝿いのだ。角都は特大の溜め息を吐くと、夜明けまでまだ遠い暗い空、再び焚火を見つめて時間を潰すのだった。



「……! …っ、……!!」

普段、あれだけ煩いと思っている飛段なのに、こうも大人しいと角都も気が萎える。

「…どうした。いつものように喋らんか」

艶事の話題にしては色気の無い言葉に、飛段は涙目で相棒を見上げた。

「…って、だって。
 男の声なんて…萎えるだろ……?」

強く噛んだ腕の歯型からはうっすらと血が滲み、彼の力を物語っている。
初恋も未経験の乙女のような理由に、角都は眉間の皺をぐっと深くすると飛段を更に慈しむのだった。

沈黙は、金。
うるさい飛段が黙るほどに、価値のある時間なのだ。可愛がってやろう――

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シガーキス
※現パロ

「なぁ、1本くんね?」

其れは、飛段の常套句だ。
酒の場での1本、喫煙所での1本、帰り道での1本。

勿論、飛段が自身の煙草を吸うこともある。
けれど彼はいつも角都を見上げるのだ。

「1本」

煙草は貸し借りのするモノではない。だから飛段から返って来ることは――滅多になかった(時々、パチンコで勝ったとカートンで寄越されることはあるが、何故か自分の好きな銘柄なのだ。意味が分からない)。

「… …」

仕方なしに渡した角都に飛段はいつも文句を言う。

「この銘柄(ブランド)は重すぎる」
「美味くない」
「ジッポのオイルが切れた」

不機嫌を体現した手の早い男に、更にいちゃもんを付けるなど周りの仲間は見ていてハラハラするのだが不思議なことに角都は飛段に手を上げなかった。本人曰く「時間の無駄」。

「なぁ、1本くんね?」

今宵も飛段は角都に訊く。
角都は持った煙草を咥えると、ジャケットのポケットから煙草の箱を取り出してトンと叩くと飛段に差し出す。

「あ、メントールのじゃん。これ好き」

――其れは、飛段の吸う銘柄の新作。

尻ポケットにはぐしゃぐしゃになった愛煙の煙草があるのを隠して、角都は燻る煙草も突き出すのだった。

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バレンタイン

商店街を歩けば、何処も鮮やかな赤とピンクが目に入った。

【バレンタインフェア実施中】
【あの人に想いを贈ろう】

これが“平和”か、角都は鼻で嗤う。
大戦前はこんな習慣は無かった筈だ。

想い人に気持ちを届ける手助けに――奥ゆかしい想いに商魂を込めた菓子業界、好きな人に愛を伝える日から円滑な人間関係の為に配る動作になり、そして今は自分自身の為に高価なチョコを揃えるのがこの祝祭になったと聞く。

もうすぐ訪れる“恋人の日”に傍らの恋人を見て角都は思案する。

恋人らしいことを、飛段(コイツ)は必要とするのか。そもそもバレンタインを分かっているのか。いや、宗教(ジャシン教)ではどう扱うのか――?

「うぉ、美ン味そう~!」

そんな角都の思いとは裏腹に、飛段は今日も自由だ。
香ばしい匂いにつられ、焼かれる団子に足を向けた相棒に「これで買え」角都は小銭を渡して背中を向ける。

「え、角都は食わね~の?」

小首を傾げた相棒の言葉に

「さっき飯を食ったばかりだ。食えるか」

不機嫌に角都は答えると「先に戻る」告げて来た道を戻る。

「お~…う」

言われた飛段は頷くと、小走りに露店の婆に声を掛けた。

――相棒の機嫌が悪いのはいつものこと。いちいち気にしていたらコンビなんて務まらないのだ。



飛段と別れた後、角都は小さな個人商店の引き戸を開ける。
個人商店と言えど、流行の類は外ささない。店内の一角には“バレンタイン”書かれて装飾された棚があった。

――年の離れた若者だ、嗜好が違い過ぎる。

難しい顔をして角都は棚を睨みつける。
ピンクのいちご味のもの、キャラメル入りと書かれたもの、ピーナッツの飾られたもの――

煌びやかなチョコレート菓子に角都は眉を顰めると、“期限間近につき半額”ワゴンに置かれた銀紙のチョコレートに気が付く。

――死なない男だ、何を食わせても問題ないだろう。

これ幸いにとばかりに見知ったチョコレートを角都は手に取ると、会計を済ませるのだった。



食べ終わった団子の串を咥えながら、ブラブラと飛段は商店街を流し歩く。
別に相棒と一緒に過ごすのは嫌いではなかったが、こうして1人で過ごす時間も彼は好きだった。

一歩歩く度に目に入る“バレンタイン”の文字、相棒(角都)はそのイベントを楽しんだことがあるのだろうか。
どれ、若い俺がちょっと教えてやろう――そう勇んだものの、外套のポケットに入った小銭では凝ったチョコレートなんて買えそうもない。

「小遣いくれない角都が悪いんだっつーの」

飛段は独り口を尖らせると、道の角にある【だがし】書かれた看板の店に何かを思いつく。小走りに店に入ると

「ば~ちゃん! これ頂戴!!」

飛段の残された小遣いでも買える、安価な板チョコレートを買うのだった。

――だって、相手はあの角都だ。
ハイカラな菓子じゃぁ、食わね~かもしんねぇだろ?



宿屋で食事を終え、一息ついた所で「飛段」角都は相棒の名を呼ぶ。

「ん?」

腹いっぱい!ばたんを仰向けに倒れた飛段が視線を向けると、来い、角都は手招きした。

食事の後に名前を呼ばれるとき、其れは何らかの合図だ。
半分くらいは角都からの雷、3割は今日の任務の反省点、残る2割は夜のお誘い。
今日は移動だけで任務らしいことは何もしなかったから、悪戯したことへの目玉か、久し振りの――

普段の生活態度から、飛段は角都に怒られるような事しかしていない。そんな相棒の怒りを少しでも抑えようと、飛段は起き上がると昼間に買ったチョコレートを外套から取り出した。

角都から文句を言われる前に、彼は其れを差し出す。

「角都! これ…」

同時に、呼び付けた角都もチョコレートを机に置いた。

「飛段」

お互いに出したのは、同じ菓子メーカーの銀紙に包まれた簡素な板チョコレート。

「「!?」」

互いにチョコレートを相棒の顔を見て、暫くの間を取ったあと――噴き出した。

「え、角都…お前バレンタイン知ってんの?」
「……お前こそ。
 寧ろ、こうして他の宗教の祝祭に興じていいのか」
「ジャシン様はかんけーねぇもん」

そう、同じチョコレートを交換する。

「ありがとなぁ、角都ぅ」
「……悪くない、受け取る」

嬉しそうにはにかんだ飛段と、照れ隠しなのかそっぽを向いた角都と。
それでも相棒からの思いは嬉しくて、濃い緑茶を淹れてチョコレートを食んだ。

――まるで指輪の交換みてぇ。

銀色の巻紙を見ながら、ぼんやりと飛段は思う。
そんな飛段に、角都からの思い(指輪)が現実になるのはまだ先の話――

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香り

――此れが平和か。

任務が無いと知った朝、鏡台を占領して髪の毛を弄る相棒を眺めながら角都は思う。

忍の基本は隠密。
風下から距離を詰めるのが基本。狩りをする動物と同じ原理だ。
一流の忍たるもの、日頃から“匂い”には気を付けなければならない。

それがどうだ。

『今日の任務は無くなった』

知らせてからは“こう”なのだ。

洗顔の後は化粧水、柑橘の香りのするワックスを髪の毛に擦りこみ、今は角都に振り向いて尋ねる。

「なぁ~角都ぅ。
 どっちの香りのが好き?」

差し出されたのは細長く金の装飾の施された瓶と、蝶の形を模した小瓶。
所謂“香水”の類のもので、デイダラやイタチと共有しているもののようだった。

「…好かん」

きゅっと長い髪を一纏めにした角都は答える。

「角都もワックスつけりゃぁいいのに」

ぶつぶつと飛段は唇を尖らせ、蝶の小瓶の液体を腰に吹き付けた。
濃厚なムスクの香りが角都の鼻腔を侵し、慣れない香りに彼は咳払う。

「……好かん」

角都はもう一度言うと、べろりと無防備に晒された飛段の首筋を舐め上げた。耳の後ろから立ち上る、飛段の甘くまろやかな体臭に「これが良いというのに」心の内に呟いて鏡台を後にする。

舐められた飛段はと言うと

「ばっち~~~」

顰め面で首元を拭い、背中を向けた相棒を睨みつけるだけで真意には微塵も気付いていないのだった。

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アイス
※現パロ

アイスを買った。

恋人(角都)から奪った小銭入れを持って出掛けたコンビニ、一緒に行こう、誘ったのに「暑い」とにべもなく断られて仕方なしに玄関を開けた最高気温34度の昼過ぎ。
5分も歩いたところで滝のような汗、やっと入ったコンビニで涼んで適当に昼飯の弁当と気に入った冷凍食品をカゴに入れた所で尻ポケットのスマホが震える。

『公共料金の支払いを忘れていた。
 迎えに行く』

――だったら、最初から車回せ(来い)っつーの。

飛段はスマホに顰め面を向けて“既読”の事実を作ると、目に入った陳列什器から2つに割れるアイスを選ぶとそれもカゴに放り込んだ。

冷えた車内で食べるソーダ味のアイスは、きっと最高だろう。



アイスを買った。

クライアントとの会合後に立ち寄ったコンビニエンスストア、全国どこにでも出店する其れはどの店でも同じ品揃えなのが強みだ。
家から歩いて5分の距離にある店と変わらないラインナップに角都は夜食用にサンドイッチとサラダをカゴに放り込む。気に入ったパスタサラダは欠品していたが、“新商品”と貼られたピクルスは美味そうだ。それから、買い置きにしている冷凍食品も幾つかカゴに入れた。そうして、会計をしながら家で不貞腐れてるであろう恋人へホットスナック(クリスピーチキン)を注文し、

「…ちょっと待ってくれ」

目に入ったアイスの什器から小さなバニラアイスのカップを取ると「これも」追加した。

店を出た角都は、ジャケットからスマホを取り出すと一言、送る。

『これから帰る』

1分と経たず返って来る返信に彼は苦笑すると、大通りを流すタクシーを捕まえるのだった。

――アイスは、角都が好きなものではない。
けれど恋人はこの少し高いアイスを喜ぶし、一口貰えばそれで充分なのだ。

時計の針は23の少し前。
夜食の角都に、デザートの飛段。
さて、飛段が“デザート”だけで済むのかは神のみぞ知る――

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※ティーンズハート角飛♀

オンリーイベントのパステルカラー背景から浮かんだ、
書きたいところだけのティーンズハート角飛♀です。
余白が多いのは仕様です。
キャラ崩壊が甚だしいので苦手な場合は薄目でスクロールしてください

1.プロローグ

湯里 飛段(ゆざと ひだん)、16歳。

少し背伸びして入った高校、入学式で誰とも友達になんてなれなくて不貞腐れた昇降口。

グラウンドの隅で本を読む先輩に、

恋に、落ちました――

2.知りたいの、あの人のこと。

あの人は、だぁれ?
すらっと背が高くて、声も格好良くて。
もちろん、顔だってハンサム。

クラスでやっと出来た友達のデイちゃんは凄く情報通で、
あの人が“国立難関大特進コース”で、
生徒会の会計をしている角都先輩だってことをすぐに調べてくれた。

3年の、先輩。
1年の私にはとっても遠い存在。

しかも特進コース!?

どうしよう、私、この学校に入ったのだって奇跡みたいなものだし、
下から数えた方が早いよぉ…

デイちゃんは
「補習制度で先輩にお願いしたら?」
 なんて言うけど、無理無理無理無理――――っ!!

だって、先輩。
あんなに格好良いんだもん。

彼女……くらい、いるよね…?

3.それって私には”ヒミツ”だったの…?

「あっ、角都せんぱ――」

廊下で見掛けた先輩に声を掛けようとして、私はそのまま動けなくなった。

先輩の隣には、2年のうちは先輩。
さらさらの黒髪がとっても素敵で、色も白くて華奢で、本当にキレイ。
本当に私と1つしか違わないの?
ってくらいお上品で憧れの先輩。
…って、そうじゃない。

どうして?

どうしてうちは先輩は角都先輩と一緒に歩いているの?

だ、だって学年だって違うし。
うちは先輩も特進コースなのかな?

あれ、でもあんまりお喋りしない角都先輩が何か言ってる。
先輩、身長が高いからお話する時に少し屈んでくれるんだよね。
優しいところ、大好き。

角都先輩が少し屈んで、
うちは先輩が背伸びして。

…え?

今、キス、した――?



うそだ、
うそだ、
うそだ。

「だ、誰にも言わないでね」

って前にうちは先輩が保健室で教えてくれたこと。
先輩、実は付き合ってる彼氏がいるってこと。

年が離れてて、身長も高くて、
ちょっと人から誤解されがちなんだけど、
とっても優しくて紳士なんだって。

まさか、
うそだ。

先輩が付き合ってたのが角都先輩だったなんて。

おねがい、かみさま。

嘘だって、言って。
私のこの記憶を、どうか消して。

やだやだ。
うちは先輩も優しくて大好き。
だから、
キライになんてなりたくない。

私が「角都先輩が好き」って打ち明けたら
「応援するね」
ってぎゅっと手を握ってくれたじゃない?

あれも、嘘、だったの?

ねぇ、
わたし。

どうしていいか、わからないよ――

4.内緒のデートに遭遇☆

「え、あ…?
 干柿…先生……?」

テスト休み、デイちゃんとカラオケに行った帰り道。
お母さんに頼まれた買い物をしていたら、
よそ見して歩いてた私はとっても身長の高い男の人にぶつかった。

ごめんなさい!

謝って顔を上げたら、科学の干柿先生だ。

「…っと…」

驚いた干柿先生は、学校で見る白衣とは全然違う雰囲気で。
なんかこう、“大人の男のひと”って感じ!

顔は怖いけど、優しい先生で。
いつも赤点の私に難しくないプリントを出してくれるんだ。

それにしても、先生、驚きすぎじゃない?
やっぱり学校の外で生徒と会うのってびっくりしちゃうのかな、
なんて思っていた、ら。

「鬼鮫?」

先生から可愛らしい声が聞こえる。

あれ、私。
この声知って……?

「どうした、鬼鮫」

先生の隣から顔を出したのは――

「う、うちは先輩!?」

5.決戦はバレンタイン!!

流石に、バレンタインに告白、って
狙い過ぎかな?

でも、でも。

角都先輩は卒業しちゃうし、
やっぱり伝えるなら
“今”
じゃない?

デイちゃんもそう言って背中を押してくれたし、
先輩はあんまり甘い物好きじゃないって教えてくれたから、
ビターチョコでガトーショコラ、
作ったんだ。

勿論、成功したのを綺麗にラッピングした。
デイちゃんがリボンをくるくる~って巻いてくれて、
「作ったんだよ」
って素敵なお花の飾りもつけてくれたんだ。

うん、ありがとうデイちゃん。
私、頑張るね!!

6.かみさまが私に微笑んだ

え?
うそ、まって?

せんぱい、
今、何て言ったの??

「数字と金にしか興味が持てなかったが、
 初めて人に興味を持った。

 お前だ」

って。

え?

嘘じゃない?
夢じゃない??

私、先輩の、
カノジョ、になれるの?

私が好きって言って、
先輩も好きだって言ってくれて、

うそ、うそ、うそ。

夢なら、覚めないで!!!!

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999本の薔薇
※現パロ

999本の薔薇の花言葉――何度生まれ変わってもあなたを愛する

一目見た時に“嗚呼 この人だ”飛段は悟った。
理由なんて分からない。ただ、この人が“運命”なのだと。

それは、飛段が社会に出て1年目の春。
所謂、就職氷河期世代の飛段は運悪く町工場(まちこうば)の最終選考に漏れ、目出度く無職が決定した。
最終選考、なんて形容するものの、その実は友人の家族の経営する工場の職員だ。――所謂“口約束”。
『ウチで雇ってやるよ!』なんて調子のいい友人の口車に乗せられ、信じた結果が“コレ”だった。

最終学歴は工業高校。
スマートフォンに登録した日雇いの仕事を気の向くままにこなして、小遣いは稼いでいた。

――そんな、薄い給料袋を覗いていた帰り道、彼は“運命”に出会ってしまったのだ。

見た目こそ良い方だったものの、頭の方はからきし。学校の成績も下から数えた方が早いくらいで、悪友からは「デキ婚しそう」なんて言われ続けた飛段だ。つるむのは悪巧みに敏感な友人ばかり、勿論、彼女(オンナ)だって切らしたことがない。

だから、だから余計に同じ“男”の出立ちをした彼に目を奪われてしまったのは運命のイタズラとしか思えなかった。

悪友たちの必死のネットワークを使って、やっと掴んだ情報はほんの一握り。

「隣町に住む証券マンで年は1回りか、2回りも上」

バツイチらしいとの情報もあったが、それはあまり信じてない。
彼は“大人”だ、飛段の知らない世界があったっていい。それに飛段だって年の割には派手に遊んでいた方だし、その辺に関しては深く追求したくなかった。

「なぁ、俺、どうやってあの人と知り合おう?」

素直な告白に、飛段は元カノからは特大の張り手を食らう。けれど、姉御肌な彼女は元カレの為に知恵を貸してくれたのだった。その名も――“少女マンガ作戦”。

証券マンが男に興味がないのは分かりきっていたことだし、頭の悪い飛段たちにエリートの知り合いなんていない。
どうにか接点を作ろうと架空の“飛段”を作り上げた。

悲壮な仔犬感を必死に作り出した雨の夜、アパートの外階段で会社帰りの男を潤んだ瞳で見上げる。

『ちょっとヘマして家に帰れなくなっちまった。お兄さん、雨宿りさせてくれねぇ?』

軽く殴ってくれと言っただけなのに、何故か3発も叩き込まれた飛段の顔は赤黒く腫れ不細工で。

『こんな顔じゃぁ嫌われちまう!』

飛段は抗議したものの、腹に1発蹴りも喰らって蹲るしかなかった。

「ぜって~許さねぇ」

飛段は呪詛を吐いたものの、意外なことに古風な男は薄っぺらい嘘に騙された。

――惚れた男の名は角都。

調べた情報では証券マンと言われていたが、風俗店の経理担当なのだと説明した。不愛想な面立ちと、この身長が繁華街では便利なのだと付け加えながら。
――だから、“しくじった”飛段の行く末も心配してしまったのだと。

全身全霊で恋をする、なんて飛段の柄ではなかったが、見つけた運命・角都に彼は必死だった。

嘘は、いつの間にか真実へ。
一晩と言った雨宿りは5日になり、2週間になった。

『今日は1日晴れるでしょう』

お天気キャスターがそう説明しても、飛段は角都の家を離れず、そうこうしているうちに1年になった。

飛段はもともとフリーターだったから“職”の心配はない。日雇いが主な彼だったが、角都の家から近いコンビニで深夜のシフトに入り、生活費を渡すと20も年上の角都は無下に飛段をあしらう事も出来ず、“同居人”はいつしか“同棲相手”と格上げされた。

渡された生活費を、角都は律義に貯金する。
使ってくれ、飛段は言ったが角都は「今まで1人で生きてきたんだ、犬が1匹増えた所で生活に支障はない」そう取り合わなかった。

「やっとお前の貯金が50万を越えたぞ」

飛段名義の貯金通帳を捲りながら呟いた角都に、飛段は尋ねる。

「なぁ、それって俺の金?」
「何を当たり前のことを。お前の金だ。
 俺が管理しているがな」

膝の間に座った彼が見上げると、恋人は薄く笑みを浮かべる。
贅沢を嫌う節は無かったが、角都は貯金が趣味の男で、若い頃には金で失敗した経験があると言っていた。だから“宵越しの金は持たねぇ!”豪語する飛段をいつも叱るのだ。

見上げた強面に飛段は続ける。

「なら、ちょっとその金借りれねぇ? 俺の金だろ??」
「…無駄使いなら許さんぞ」
「ん〜どうだろ?」

「何が欲しいんだ」「何を買うつもりだ」
のらりくらりと恋人の質問を交わし、飛段はこっそりとブックマークした花屋のサイトを開く。

☆恋人との特別な思い出に☆
赤い薔薇 999本
お値段税込33万円(特別価格)

貸せる、貸せない。
恋人の返答を聞く前に、『購入』ボタンを押した。

1DKの狭いアパートに、999本の薔薇を生ける花瓶なんて存在しない。それは一緒に住む飛段だって分かっている話だ。
と、言うか999本ってどんな量なんだ?

雷が落とされるのは目に見えている。けれど、“運命”にはちゃんと伝えたかった。
何故だかよく分からないけれど、飛段はこの先の未来だって角都と共に生きたいのだ。その結末がどんな結果であれ。

999本の薔薇の意味、何度生まれ変わってもあなたを愛する。

『お届け日のご連絡』

届いたメールに飛段は口の端を上げるとテレビを眺める恋人を見上げた。

「角都ぅ。
 今度の土曜日は家に居ろよぉ?」

ニヤついた顔の恋人に悪巧みか、角都は渋い顔を作ると舌打ちするのだった。

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事実は小説よりも奇なり

夏になると、“涼”を求めた話が多くなる。

夕涼みをしながら足を投げ出した縁側の景色、風鈴の音。
肝試しをしようと悪友と顔を突き合わせたのは遠い遠い昔の話だ。

幼い頃は祖母の口から、体術を覚えた辺りでは怪談話が上手い噺家が村々を回ったのを聞きに行ったものだ。

「これは親戚のジイさんの弟の話なんだが――」
「隣に住む家の姉から聞いた話――」

話の始まりはいつも同じ。
“誰か”が曖昧な状態で、けれど“其れ”は近くに在るものとして話が進む。

不運な事故を呪って祟る子供の話、
山の神を怒らせた男の話、
水辺に棲む怪異の話、
禁忌に触れた夫婦の話――

生温い風を首筋に受けながら聞いた話は、いつの間にかスイッチ一つで語られるようになる。

『今日のラジオテーマは“怪談”!
 貴方のとっておきの怖い話をお待ちしております』
『貴方は、気付いただろうか。
 この襖に映る怨霊の影に……(衝撃の映像はCMのあと!!)』

言葉だけではなく、音響や映像も交えて語られる怪談は単純な話でも怖いように聞こえる。
けれど、大戦を生き抜き、殺戮を繰り返した角都と飛段には“目に見えない”怪異など“奇譚”ではなかった。

「ユーレイなんて生きてるんだか死んでるんだか見えねーモンよりよぉ、生きてる人間の方が怖いよなァ」

畳の上に転がりながら、きんつばを齧って呟いたのは飛段。

「ほう。珍しく真っ当な事を言うな」

傍らで報告書を綴っていた角都が視線を上げて珍しく褒めた。

「自分の方が金を多く持参したからジャシン様に救われるだの、贄になる人を連れて来たから自分の方が上だの、わっかんね~っつーの」

テレビを見ながら唇を尖らせる相棒に、少しだけ教団の闇と人の業を垣間見て角都は頷く。

「……そうだな、生きてる人間の方が怖い」

まだ角都が今よりももっとスれていなかった頃。少し優しくして甘い顔を見せた女人から凶器を突き付けられたことを思い出して、彼は嗤った。

「それに…目に見えぬ怪異より、こうして死なない男の方が異形だと思わんか」

書き付けた報告書を確認しながら筆を置いた角都は、きんつばの置かれた皿に手を伸ばす。

「そうだな、死なね~男(角都)の方が追いかけてくる怪物より怖ェ」

――ちょうど、テレビから流れるのは廃村を探検するカップルを襲う怪異の話。

袖を引っ張られた、耳元で声がした、誰も居ない筈の向こうの家で人影が動いた——狼狽える青年たちの再現映像に“忍の質が下がる”角都は甘味を齧りながら舌打ちする。

「同(おんな)じだなぁ、俺たち」

此方を振り向いて、にへら、目尻を下げた相棒に「抱く」角都は顔を険しくさせると「ぅゎ!」飛段の叫びも虚しく、夜の怪異になるのだった。

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血の雨

――その2人組の通った道には、血の雨が降ると云う。

それは、まことしやかに囁かれた不死コンビの噂話。

新しく角都にあてがわれた相棒は、年齢の所為かコロコロと表情が変わる奴だった。

「これ、うっめぇ~!」
「…ケッ、シケてんな」
「あ~ァ。角都のコト怒らせちまったなァ……カワイソ…」
「げはははは!!すっげぇ~~!」

目元しか覗かない、表情を読ませることを禁じた角都と新しい相棒の姿は対照的で「また新しい相棒が必要か」リーダーは頭を痛めたが、意外なことに真逆な見た目の2人は長続きしているようだった。

あれだけ他者の命を軽んじ、賞金首の命を刈ることを厭わない、頭に血の上りやすい角都の性格に変化があったのは飛段と組ませてから少し経った頃。――少し、大人しくなったらしい、のだ。

アジトに居合わせたサソリ曰く、あの気の短い角都が飛段に“文字”を教えていると言う。が、言伝を頼んだゼツは「なんかキレてて飛段の首がフッ飛んでたよ」なんて呟いていたから真相は闇の中だった。



新しい相棒と組んだ角都は、今まで以上に苛々することが多かった。

――別に、単独行動だって構わないのに。

属した組織(暁)はツーマンセルと基本とし、角都がいくら相棒を殺そうがその度に新しい忍が連れて来られた。

「俺を怒らせたら殺す」

今回もいつもと同じように凄んだものの、ひょろりと色白な忍は首を傾げる。

「殺すゥ? 俺、死なねーけど??」

妙に語尾を伸ばす物言いに角都は眉を寄せると反射的に相棒の頭を殴打する。
鈍い音と共に崩れ落ちた“元”相棒に「1秒も持たなかったか」己の激情を棚に上げて溜息を吐く。けれど次の瞬間、ゆらりと立ち上がった飛段に角都は目を剥いた。

「~ってぇなァこのジジイ!?
 死なねーっつったろぉ!?」

頭蓋骨が半分割れた状態の彼に思わずまた術を放った角都だったが、やっぱり飛段は立ち上がるのでチャクラの無駄だと角都は肩を落とし、相棒が“不死”であることを身を以て覚えた。

そんな飛段を相棒として認めたある日、相変わらず角都は苛々としていた。

「角都ぅ~~向こうの姉ちゃんに断られたァ」

胸元の徽章を揺らしながら無理矢理な宗教勧誘を行う飛段に、平手打ちは当たり前の結果だろう。けれど、口での勧誘に暴力行為とは過剰防衛ではないだろうか。角都は思う。――その日の晩は彼女が頓死したと、町一番の話題になった。

またある時は

「わーーやっちまった~」

風遁を避けきれなかった飛段が頬に薄い切り傷を作ると角都は舌打ちをして虫の息の賞金首に止めを刺す。いつもは近距離に居る飛段が鎌を振るうのに、角都が手を下すのは珍しかった。

――苛々の原因は分からない。

いつも飛段は角都の神経を逆撫でするし、その癇癪を晴らすように角都は無関係の人間の命を散らすのだ。

頭巾の長身と金髪の2人が通った後には血の雨が降る。

そんな噂を聞いたゼツがひっそりと後をつけて、リーダーに報告したのはたったの一言。

「好きな子を虐められるとヒトって逆上するんでしょ? ソレじゃない?」

盛大に顔を歪ませたリーダーに、「ま、ボクはあんまりヒトのこと理解ってないから」なんて続けて地面に消えると、残されたリーダーは角都に負けないくらいの、特大の溜息を吐いて頭を抱えたのだった。

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質素倹約
※現パロ

はっきり言って、角都の財布の紐は固い。
良く言えば倹約家、悪く言えばケチ。

繁華街に近い一等地に構える居は最初こそ「金持ちィ!」そう手を叩いたが、クローゼットの中の衣装ケースは安い家具量販店のものだったし、エアコンだって滅多に点けない。
キッチンに置いてあるエスプレッソメーカーは渋くて格好良かったが、飲むのは休みの日だけだし(しかも出涸らしはシューズケースの消臭剤行きだ!)、紅茶のパックなんて最低でも2回は使う。

腕に付けたハイブランドの時計が泣いてる、ファミレスで食事を済ませる恋人を見て飛段は小さく溜め息を吐く。

「……文句があるなら食うな」

白いカップになみなみと注いだコーヒーを飲みながら睨んだ角都に「ちっげーし」飛段はスパゲティを頬張る。

付き合いたての頃のデート言えば、新しく出来たばかりのピザ屋だったり回らない寿司に高級焼肉店だったのが今はどうだ。
寿司は回るし洋食と言えばメニューが豊富なチェーン店、ショッピングモールに行けばフードコートに席を取る。勿論、飛段が頼めば一等地の焼き肉店に連れてってくれるし、望めば回らない寿司も食べさせてくれたが、頼むにはそれなりの“理由”が必要だ。かと思えば道の駅で食材を爆買いするし(それをちまちまとした処理するのを見るのが楽しい)、格好いいなと言ったスポーツカーを現金一括で買ったこともある。変に金遣いが荒い部分もあったものの、“質素・倹約”が角都のモットーなのは変わりなかった。

「はーサッパリしたぁ」

潮風のあたる町までドライブした夜、頭がパリパリすると言ってシャワーを浴びた飛段が部屋に戻ると普段は冷えたリニングがほんのりと暖かい。
先に上がった角都は既に寝室のようで、間接照明の明かりが漏れていた。

――今日は、“する”のか。

もう一度豪快に頭を拭いた飛段は体温が上がるのを感じる。

先に恋人をバスルームから追い出したのだって“其れ”の準備の為だ。理解っているのに、こうも行動で示されると恥ずかしさが先立つ。

「…上がった」

キッチンで喉を潤し、リビングの電気を消して寝室に顔を覗かせると素っ裸のままベッドサイドの腰掛けた角都が顔を上げた。

「雰囲気のカケラもねぇな」

肩に掛けたタオルを投げてベッドにダイブした飛段に、角都はエアコンを止めるとスプリングを揺らして恋人を組み敷く。肩まで伸ばした髪が落ちて、飛段の世界は暗闇に包まれた。――恋人の双眸だけが、闇に妖しく光る。

「止めると寒ぃだろ~?」

飛段は唇を尖らせるが、「どうせ汗だくになる」角都は意に介さず、恋人に口付けた。

――確かに、こうして肌を重ねるのに体温は上がる。

次第に上擦る自身の息遣いを聞きながら飛段は認識する。

けれど、だけども。

「…わっかんねぇ」

恋人に身体を開かれながら、彼の倹約と贅沢の線引きに飛段は頭を捻るのだった。

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