朝の●事

タイトルの元ネタは某お茶の名称。
朝にまつわるエトセトラ。

1）Ping-Pong

夏休み3日目、狭いシングルのベッドでぎゅうぎゅうになって眠るのも慣れてきた頃、君は僕の腕枕でぐっすり眠る。
あぁ、そろそろ痺れも酷くなって感覚も無くなってきたし、なによりお腹も空いてきた。
昨日の夜も面倒になってカロリーメイトを半分こしただけなのに運動だけは人一倍こなしてしまったから、もう僕の体力ゲージはずっとエンプティだ。

いつもより近い、その顔の距離。
思ったよりずっと長いまつ毛と、さらさらの黒髪。薄く開いた唇に、今もまた齧り付きたい衝動を抑えて、
必死に朝の欲望だって押さえ込む。

「ん～…」

寝返った君が、ぴったり僕に寄り添ったから、僕の欲望ゲージはもう振り切れる寸前だ。
必死に古文の暗唱をして意識を逸らせて。

でも、キミから香るのは僕と同じシャンプーの匂いだったから、どうも抑えきれずにそっと頬に口付けた。


さぁ、今日もさっさと宿題を終わらせて卓球しよう。



2）おそ松さん

布団の向こうで眠る弟は、一体どんな顔して瞳を閉じているのだろう。
いつでも見られるその寝顔だったけれど、家に帰ればそれは遠い距離になってしまうのだ。

出窓に腰掛けて大して弾けないギターをポロンと鳴らせば、白み始めた空に和音が溶けた。
いつもは痛々しい歌の一つや二つ、口ずさむカラ松だったけれど、今朝はなんだかインストゥルメンタルな気分で、ひっそりと弦を弾くのだった。

壁掛け時計の指した針は朝の4時。
寝入ったままの弟たちの、優しい寝息だけが静かに響く。

「…にいさん？」

すうっと襖が小さく開いて、覗いた声は末の弟。
寝ぼけた双眸がカラ松をじっと見据える。

「起こしたか」

小さく尋ねるとトド松は首を振った。

「…ううん。にいさんの歌、聞かせて」

甘えるように隣に腰掛けると、兄は嬉しそうに愛の歌を口ずさむ。
肩に預かった頭がすっかり重くなったのを感じて、カラ松はそっとギターを置いた。

遠い距離だと思った寝顔は、いつもよりずっと近かった。

「Good night, my brother.」

もうすぐ、新しい朝陽が昇る。


3）ONE PIECE

気だるい朝が苦手なのを知ってるから、無理に起こしはしなかった。

規則正しく上下する胸に、恋人が深く眠っていることを悟る。
絹糸にも似た、艶やかな青髪を撫でると渦中の人は薄く目を開けた。

まだ、意識が宿る前の定まらない視点で
それでも恋人の腕の中だからなのか優しい微笑が広がる。

「…おはよう、バギー」

そっと額に口付けると、その人は嬉しそうに瞳を閉じた。

そう、この無意識の顔が好きだから
ずっとずっと、起きるまで待っててやるのだ。

夜が明けるにはまだ早い時間。
もう一度お前に溺れて、一眠りしようか。

恋人を抱き寄せて、もう一度彼は青い海に身を任せた。
世界は波の音と、恋人の寝息だけ。



＊FIN＊