蛇の目でお迎え、嬉しいな

材木松の日常。

「合コンに行ってくるから」
トド松が短く告げて、下ろしたてのグレーのスニーカーに足を通す。
出掛けて行った夜半になって、急にポツポツと雨が降り出してきた。
天気予報には雨のマークは無かったから通り雨なのなもしれない。けれど、荷物の少ない彼はきっと傘なんて持ってないだろうからと、カラ松は素早くスマホに指を走らせた。

『駅まで迎えに行く』

直ぐ既読になったけれど、連絡があったのは終電が過ぎて5分後。

『お腹すいた。らーめん食べたい』

ラーメンが平仮名なのはアルコールが入ってるからだろう。カラ松は苦笑するとお気に入りのギラギラの髑髏の傘を持って家を後にした。

駅に着くのと、電車が到着するのはほぼ同時なのは計算済みだ。
彼が駅の改札口で傘の水滴を落としているとグレーのスニーカーを濃くした弟が駆け寄ってきた。

「ただいま、兄さん」

ちょっとだけ酔った、とろんとした瞳で。

相合傘をした帰り道、コンビニの袋をぶら下げてトド松が兄を見上げた。

「どうした、マイブラザー？」

少しだけ屈んだ兄に、腕を絡めてトド松はそっと耳打ちする。

「兄さんと一緒に過ごす方が、合コンよりずっと楽しいや」

――霧雨が一層強くなる。
風を避けるように髑髏の傘が少しだけ浮かんで、その影で2人はそっと口付けを交わした。


＊FIN＊


霧雨の中、駅に向かう私に誰もお迎えは来ません（作者の体験がそのまま妄想話になるパターン）。