バニラバー

おそ松SAN
安定の過去捏造で。

冷凍庫に入った、1本のバニラバー。
隣にはハーゲンダッツのバラエティセット。

「…律儀だなぁ」

独り、トド松は微笑った。



＊



記憶を辿れば、きっと小学生の頃だったと思う。
夏の暑い盛りのある日、母さんが「アイス買ってきたよー！」と一人に一つずつ、銀紙で包まれたバニラアイスを買ってきてくれたのだ。
いつも冷たいものと言えばカキ氷だったから、それはもう兄弟で大はしゃぎして。
ただ、その日トド松はお腹の調子が悪かったから「仕舞っておいて」と母にお願いしたのだった。

翌日。
学校から帰って冷凍庫を開けると楽しみにしていたアイスが影も形もない！！

「僕のアイス！！！！！」

たまたま一緒に帰ってきただけのチョロ松を叩き、少し早く帰ってきていたカラ松に暴言を吐く。
一松は「誰が食ったかなんて分かんねーだろ」と慰めなのか怒りなのかよく分からない諌め方をし、それでもまだ喚き散らすから、とうとう母の松代に雷を落とされてしまった。

「押入れで反省しなさいっ！！！！」

…だって、だって。
食べたかったんだ。あのアイスバー。お腹が痛かったから、無理に食べなくていいよって母さんも言ってたじゃないか。
ばか。ばか。母さんのばか。兄さんのばか。

薄暗い押入れで、しゃくりを堪えていると、すぅっと引き戸が開いた。

「…これ」

拳分だけ開けられた其処から差し出されたのは、一本のバニラバー。
昨日と同じの、銀色の包み紙がしてある、食べたかったバニラバー。

「ぇ？」

返すと

「早く食え。母さんには内緒だからな」

戸の向こうではつっけんどんな、ちょっと低い声がする。
――あぁ、この声は…

「…ありがと」

棒を掴むとしゅっとその手はトド松の視界から消えた。
触れた指先がちょっと火照っていたのは、きっと全速力で道一本向こうの駄菓子屋まで行ってきたからだろう。

ありがと、カラ松兄さん。

暗がりでペリペリと銀紙を剥がしながら、兄の買ってくれたバニラバーを一口、齧った。



＊



「たっだいま～～～今日も大負けダヨ～～～ン」

ガラガラと玄関の引き戸が開き、帰ってきたのは今日も一日フラフラとしていた長兄のようだ。
台所は玄関からすぐだったから、冷蔵庫の前のトド松におそ松も気付く。

「お？アイス？？いいねいいね～！」

ひょいっと肩から顔を覗かせ、懐かしいじゃんこれ！と手にしたバニラバーを素早くトド松は取り返した。

「ダ～メ。これは僕の。兄さんはハーゲンダッツの方が好きでしょ」

「んーそうだな」

物事を深く考えない兄は、さして気にした風もなくバラエティカップを選び始めた。


子供の頃から変わらない、銀色の包み。


「あ～～でもやっぱそれ食いてぇわトド松！寄越せ！！！」

振り向いたおそ松にんべっと舌を出す。

「ダーーメ★」

「おいこら待てーー！兄貴を敬えーーー！」

追いかけてきたおそ松をひらりひらりと交わしながら、今日もトド松はそっと呟いた。



…ありがと、カラ松兄さん。




＊FIN＊

今ってバニラバーって幾らくらいすんの？